『彼女がそれを始める理由』

件のパートナー。甘いものが好きです。洋菓子もですが、概ね和菓子系。あんこ物が好きでお昼過ぎには三時のおやつよろしく、パクパク食べているみたいです。
そして暫くして必ずこう言うんです。「太った!もーなんで?!あー、もぉー!」と。
意味わからん、食べたらその分、体に来るのは当然やん。なんで?っていうその意味が俺にはわからんわ。…という事はゆめゆめ、間違っても決して言う事無く。
パートナーには気づかれぬように、僅かに深呼吸しつつ気持ちを落ち着け、自分はこう言うんです。
「食べ物はね、カロリーで太る訳じゃないみたいだよ。糖質、糖分から脂肪に繋がり太るみたい。だから、君の好きな和菓子とかできるだけ少なくするか、いっそやめてはどう?」
そんな自分で言うのもなんですが、しごく真っ当な意見をパートナーに言うと彼女は…。
「あ、無理それ、何それ?意味わからんわ、無理やん、無理に決まってるやん、自分、意味わからんわ」。
落ち着け、自分。ここで感情、乱して同じテンションで言い返しても火に油なんは、めちゃめちゃこれまでの経験からよくわかってる事やろ?そう、落ち着け自分。そう心中、自分に言い聞かせながら今度はこう言いました。
「あのね、糖質、糖分の過剰な取り過ぎは笑いごとやないんやで?糖尿病や、他にも重篤な病気になって、最悪、息ひきとる事も稀やないし、可能な限り脂肪の源は緩和し、尚且つ出来る範囲での運動していかな、40その辺からもう本当に正直、ホンマにヤバいと思うよ?好きなのはいいけど、程度を踏まえて先の事、考えてみない?」と、自分としては最大限に温和に理詰めに、でも相手に届くように若干、声は高めにそう言ったんです。パートナーの健康が本当に心配でしたから。
「それは…わかるけど、でも、和菓子だけはどうしても、やめるの無理!運動もしんどい!出来へんねんあたし!」と、最後は悲壮的な顔になり泣き出す彼女。そんな彼女を見るのは本当に、辛い。約30秒ほど相互に無言の間があり、自分はこう言いました。
「じゃあ、一緒に歩こ。すぐにジョギングは誰でも絶対に無理だから、休日の朝夕、一緒に駅の近辺までウォーキングしていこ。その距離を少しづつ長くしていけば、必ず効果は結果として出るからさ」。
自分が昔、運動系の部活をしていた時、あまりに体力がないため、練習にさえついていけず、それで近くの公園を走り始めた事を彼女にかいつまんで伝えました。
最初は、なんとか1kmの距離をゆっくりと。それがそこそこ出来るようになれば、距離を長くして。最後はほぼ毎日、一日、10km走るのを日課にしていた事。そして部活の練習にも、なんとかついていけるようになった事を彼女に伝えました。
自分の場合はその部活が好きで、続けたいから走り始めたのですが、そうで無いなら、明確に目的がない場合、自分から走ったりトレーニングをしたりする事はまず難しいと思います。自分にチームの仲間がいたように、誰かの支えがなければ、サポートがなければ、お世辞にも楽とは言えない運動をするのは、それを継続するのはやはり困難な事だと思います。
「わかった、あたし走る、君と一緒に!和菓子を食べるために走るわ!」。最後の方は聞いていて少し面白かったのですが、でも、どうにか彼女の体調維持のためのきっかけが出来たみたいで、相方としてはホッとしました。
仕事の無い休日に、軽いウォーキングとはいえそれを行うのは自分としても、正直、少しばかりしんどい事ですが、まずはパートナーの体のために。先ゆき二人の将来のために文字通り、二人で歩いてゆく事にしました。
そう、あくまで彼女の大好物の『和菓子』のためにですが。それさえもおそらくは平穏な日々。今日も我が家はつつがなく、平穏な日常です。