『僕がそれを飲み始めたその理由』

「最近、お腹の調子が悪いんだよねぇ…」。会社の休みの日に件のパートナーともう習慣となってる、オセロゲームをしてる時。
自分が待ちの時にふとそう口にしました。今の所、状況は僕がリードしてる。パートナーは次の一手を考えてる渦中、黙して語らず必死な様相で盤面を見てる。
お腹が減ってる訳ではないのに、ゴロゴロとなったりとか、何かあんまり調子が良くないんだ。消化器内科に行っても特に問題ないとドクターは言うだけだし。あ、ストレスなんやない?とは言われたけどさ。
もうじき、俺も四十路に入るし決して若くはないものなァ…。
「ガンの一番なるのって大腸ガンだよ」。盤面を見ながら顔を上げる事なくおもむろにそう言うパートナー。「え?聞いてたの?というか怖い事、言うなよな!。俺、まだ30半ばだぜ?」。
「年齢、関係ないよ。なる時はなる。若くてもなる時はなるよ、そういう病気は」変わらず盤面に向かいながらそう言うパートナー。
「ま、マジで?そんな、冗談じゃない。この年であの世行きは勘弁だぜ?自分的にはまだ全然、若いつもりなのに…」。
「腸はね、循環器と同じぐらい大事な身体の部位だよ。ぞんざいにしてたら本気でヤバいんだから」。そう、顔をオセロの盤面に向けたまま口にするパートナー。
「ど、どうしたらいい?」。多分、はた目にも悲壮的な顔をしていたであろう自分は、そんな情けない言葉を口にした。
「善玉菌って知ってる?腸の動きを活性化させる、いい菌。それが少なくなって悪玉菌に満たされたら、腸はヤバくなるよ」。
オセロの何がそんなに面白いのか今だにわからないけど、僕が少しリードしてる状況をなんとか覆そうと彼女はオセロの盤面から目を離さずそう口にした。
「ヤクルト好き?いえ、飲んで。というかビフィズス菌、摂取して。あと、善玉菌のエサになるオリゴ糖が入ってる食品も採って。あたし作るから。たまねぎとか、ごぼう、にんにく、ブロッコリー、カリフラワーとかにオリゴ糖は入ってるから、それ使ってご飯、作るよ」。
「あ、ありがとう。ヤクルトって子どもみたいだけど飲んでみるよ」。今やってるオセロは自分に分があってリードしてるけど、日常のイニシアティブは、もう圧倒的に彼女が僕を遥かに上回ってる。
情けないやら頼もしいやら、もう何がなんだかわからないけど。こと、食生活に関しては全部、彼女に任すのが賢明みたいだ。
その日のオセロは僕が勝利した。彼女はふくれっ面で無言で怒ってるみたいだ。たかが、ボードゲームなのにさ。
「本当にありがとう。体には気をつけるよ。ヤクルトも飲むし、できるだけ食生活には気をつけるよ」。そう笑顔で彼女に言った僕に、返ってきた言葉は…。
「次はオセロ、絶対に勝つから!」。とんでもなく気合いの入った声で彼女はそう言いました。本当にオセロにどれだけ重きを置いてんだか。でも、僕の体の気遣いをいつもしてくれる事には本当に感謝してるよ。
そんな我が家のある日の日常。横揺れ、縦揺れ、されど最後は平穏に。色々あれど、マイホームタウンは今日も平和みたいです。