同じ時代に生きる者

「大谷翔平ってすっごいよねェ!」。とある日、会社が休みの日、僕が自分でコーヒーを豆から入れ、久しぶりの休日を楽しんでいた時、件のパートナーがふとそう呟いた。
「大谷翔平ってあの大谷?え、何、今、それ言うの?」と、半ば呆れ顔で口にした。「だって、かっこいいじゃん、彼。ワンちゃんも可愛いしサ」、とパートナー。「犬はこの際、関係ないよ。投打、二刀流の昨年の記録も凄かったけど、今年は更に凄まじくなってる。もう完全にクリプトン星から来た空、飛ぶ人だよ」。「何それ?また知ったかぶってぇ!」。「スーパーマン。尋常じゃない人って事だよ。実際、昨年、今年と作った記録は並みのそれじゃぁないしね」。「ワンちゃんは?」。「デコピンも可愛いけど、野球とは別に関係ないって」。「奥さん、綺麗」。「元バスケのアスリート。お似合いだよね」。「彼、三十代でしょ?君と同じぐらいだよね?えらい差だ」。「四つほど僕の方が上だと思う。というか、同世代で大谷と比べられても困る。向こうは世界レベルの超アスリート、その中でも更に群を抜いてる人なんだから」。「銀行、行ったらポスター貼ってたよ」。「エンゼルスの頃からM社とCM契約してたからね。他にも幾つかやってるけど、契約料はまるで想像がつかないレベルだと思うよ」。「あ、ホラ、なんか小学生に沢山、グローブ送ってなかった?有名なメーカーの」。「全国の小学校にそれぞれ3つずつ無償で送ってたよ。彼が契約してるニューバランス製の」。「え?あたし、履いてるけど、紺色のやつ」。「あそこって元々、野球用品には参入してなかった。どういった経緯なのかわからないけど、大谷とアクセスして彼のスパイクから衣服、野球で使う道具のほぼ全てを彼だけのために、ニューバランスは作ってる。普通はナイキか、日本製ならミズノかアシックスだと思うんだけど。」。「ニューバランス、おしゃれだよね?」。「株、上がったよ、文字通りの事だけじゃなく。元々、人気があったけど、彼が野球場やプライベートで身に着ける事で、ニューバランスのスニーカーやパーカーとかを買う人が急増したらしい。今年、初めて地区優勝しプレーオフに進出したしね。何より安打数の通算記録でそれまで日本人ではトップだった松井秀樹を抜いたよ。それとやっぱりトリプルスリーが一番、大きかった」。「何、それ?」。「打率、本塁打、盗塁、それぞれ三割、30ホーマー、30盗塁を達する事」。「それって、すごい事なの?」。「凄いも何も前代未聞、日本人では初めての事だよ」。「すっ…ごぉ」。「だから凄いんだって。日本のみならず世界レベルで野球に貢献したスポーツ界の才人だよ。彼を見て野球をしたいと思う子供もこの先、沢山いると思うよ。もうイチローや松井、松坂、それに野茂さんと肩、並べてもいいと思う」。「かっこいいしね」。「ルッキズムか。別にいいけどさ。でも、僕の中では大谷って人間的に一本、筋が通ってる人な気がする。ルックスや技術的な事だけじゃなくね」。「いい人って事?」。「普通、契約時にあの条件、金額を提示されたら、普通じゃなくなると思う。よくも悪くもというより、多分、悪い意味で。でも、彼の場合は特に何も変わらない。これまで通り、野球が好きでそれに邁進してる。そして世界の誰しもが認める結果を出してる。野球選手としても一人の男としても感嘆に値するよ。同性から見てもね」。「かなり熱心じゃない」。「何年かに一度、表れる特別な人として好意を持ってるだけだよ。彼を見てると自分も何かやらなきゃならないんじゃないかって、つい思ってしまう。会社員としての自分でもね。そういえばスポーツ番組でも、数年後、球界では大谷以前、大谷以後になるのでは?そこまで言う人もいたよ」。「結婚して泣いてる女子もいるかも?」。「それはもう仕方ないよ。どんな凄い人でも普通の人間だもの、恋愛ぐらいするさ。とにかく、世の中を少なからず変えた数少ない人。少なくとも僕の中ではそうだよ」。「来年はどうなるかな?」。「多分、何も変わらないと思う。僕の場合は今よりもっと向上し変わりたい要素、満載だけどね。とにかく、今年、大谷の試合を見て元気を貰って、逆に打ちのめされて、結果、彼には感謝してるよ」。「君、変わりたいの?」。「ま…ぁ、そうかな」。「じゃぁ、いい事、教えてあげるよ。簡単に大谷君になれる方法」。「どんな事?」。「うちもデコピン飼うのってどう?ちっちゃくって可愛い子」。「言ってる意味がわかんないけど、でも、飼えるの?生き物、飼うのって大変だよ」。「目指せ大谷ファミリーという事で、あたしも頑張って世話をするよ!」。「犬は僕も子供の頃から大好きだけど、それ、どうなんだろ」。「まずは、形からって言わない?」。「分かった。今度の休みにペットショップに行ってみようか。ホントに飼うかどうかはともかく、僕も久しぶりにワンちゃんを見てみたいしね」。世界的アスリートの話から我が家にもう一人の家族が増える、増えるかもしれないという事に知らない間に落ち着きました。昨年、今年とメジャーの試合を見て、大谷のようにという気概が僕の中に生まれたけど、家に帰ってきたらパートナー以外の誰かがいるのも、気持ちが安らぐような気もします。彼のように大きな事は出来ないけど、一サラリーマンの自分も大谷と同じ、日々を懸命に生きる壮年男子には違いないしね。ゆっくり焦らず自分の仕事をしていこうと思います。そんなこんなで、今日も我が家のマイホームはそれなりに平穏です。ちなみにパートナーは、もしワンちゃんを飼ったなら、ピンクという名前をつけると言い張ってます。デコピンのピンから?男の子だったらどうするの?そう尋ねたら、彼女はこう言いました。「考え方、古い!昨今、男は黒、女は赤とかそんなのないから!街では普通にピンクの髪の毛してるイケメンだって多いんだから!」。との事です。さてさて来年の我が家はどうなる事やらと本気で思いますが、それは大谷然り、名も知らぬ他人も然りの事と思います。願わくば、叶う事なら、マイホームでの我が家の面々、いつも笑って過ごしていきたいと思っています。多分、大谷もそんな風に思ってるんじゃないかな。優勝してもしなくても、いつも全力全開な彼が僕は好きです。勿論、パートナーの次にね。